「蜘蛛と百合」(横溝正史)

由利・三津木の事件簿05

三人の登場人物が読みどころ

「蜘蛛と百合」(横溝正史)
(「蝶々殺人事件」)角川文庫

「蝶々殺人事件」角川文庫

「蜘蛛と百合」(横溝正史)
(「由利・三津木探偵小説集成1」)
 柏書房

「由利・三津木探偵小説集成1」

俊助の友人で、
類い希なる美貌の男・瓜生が
何者かに刺殺される。
瓜生は最近、
妖艶な女性・百合枝と
つきあい始めて
いたことがわかる。
三津木俊助は百合枝に接近し、
事件の真相を暴こうとする。
ところが俊助もまた
彼女の魅力に酔い…。

由利・三津木コンビ
比較的初期の頃の事件となります。
読みどころが豊富な作品なのですが、
ここでは妖女・百合枝に現を抜かした
(あるいは百合枝に接近しすぎた)
三人の登場人物に
光を当てたいと思います。
それが本作品の
味わいどころと重なるのです。

【事件簿05 「蜘蛛と百合」】
〔事件捜査〕
由利麟太郎…私立探偵。
三津木俊助…S新聞社記者。
※他の作品では
 新日報社となっているが、
 本作品はS新聞社となっている。
〔事件関係者〕
君島百合枝
…妖艶な未亡人。
 死んだ夫から遺産を受け取る。
 気に入った男を自分のものに
 しないと気がすまない。
瓜生朝二
…美少年。三津木の友人。
 百合枝と交際。何者かに殺害される。
伊馬とり子
…朝二の恋人だった少女。
 三津木の友人。ボーイッシュ。
 朝二の敵を取ろうとするが、
 殺害される。
蜘蛛三
…有名な資産家の息子。相貌は醜悪。
 百合枝と婚約するが、
 式当日に失踪した百合枝を探し出し、
 拉致の上、思いを遂げる。
 その後、百合枝の愛人を殺害、
 自死したとされる。

本作品の読みどころ①
百合枝に現を抜かした男・瓜生朝二

この瓜生という男、超美貌の美男子です。
横溝得意の美少年、
このあとの作品「真珠郎」「夜光虫」でも
見られる美少年なのです。
特に美少年である必要性が
感じられないにもかかわらず美少年。
他の作品では、
美少年は事件の深い部分に関わり、
大活躍をするのですが、
本作品ではあっという間に殺されます。

本作品の読みどころ②
百合枝に接近しすぎた娘・伊馬とり子

本作品は昭和12年発表なのですが、
この伊馬とり子なる娘が
時代を超越しています。
風貌がまず先進的です。
「十八、九の、男の子のように
手脚ののびのびとした、
挙動なども活発で、口の利きかたも
爽やかな少女というよりも
少年といったほうが相応しそう」な
娘なのです。
つまりボーイッシュ(当時この言葉が
あったのかどうか知りませんが)。
さらには自らのことを
「ぼく」と言い表すキュートさ。
いわゆる「ボクっ娘」(当時間違いなく
こんな言葉はなかったのでしょうが)。
この娘も結局殺されてしまうのですが、
時代を超越した萌え系少女で
異彩を放っています。

本作品の読みどころ③
百合枝に現を抜かした男・三津木俊助

初期作品故か、
三津木俊助は若気の至りとも
いえるような失態を犯しています。
木乃伊取りが木乃伊になり、
謎を解明するために
接近したにもかかわらず、
百合枝の美しさの
虜になってしまうのです。
由利先生に叱られた上に、
殺されそうになったところを
助けられる始末。
三津木俊助・若気の至り炸裂です。

created by Rinker
¥2,970 (2024/05/18 17:14:06時点 Amazon調べ-詳細)
今日のオススメ!

限定的な登場人物を見る限り、
殺人犯はこの百合枝しかいません。
この百合枝、
背中一面に大蜘蛛の刺青を入れられた
女性(谷崎潤一郎「刺青」
影響か?)です。
この妖女も魅力たっぷりであり、
強烈なインパクトのある
キャラクターであり、
本作品の味わいどころの
一つでもあります。

さらには由利先生が名推理、
というよりも神業的な推理、
透視能力予知能力、
超人的活躍を見せるなど、
戦後の本格的探偵小説とは
明らかに異なるエンターテインメントに
仕上がっています。

やはり戦前の横溝作品は面白い。
何でもありの面白さなのです。
ぜひご一読ください。

(2018.8.9)

〔追記〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

ぜひチャンネル登録をお願いいたします!

(2023.10.24)

〔角川文庫「蝶々殺人事件」〕
蝶々殺人事件
蜘蛛と百合
薔薇と鬱金香

※昭和時代はこのような表紙でした。
 復刊により
 マイナー・チェンジとなっています。

「蝶々殺人事件」昭和時代の表紙

〔「由利・三津木探偵小説集成1」〕
獣人
白蠟変化
石膏美人
蜘蛛と百合
猫と蠟人形
真珠郎
付録①六人社版「真珠郎」序文ほか
付録②名作物語「真珠郎」
編者解説(日下三蔵)

〔横溝ミステリはいかが〕

created by Rinker
¥535 (2024/05/18 15:47:39時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥535 (2024/05/18 15:26:49時点 Amazon調べ-詳細)

〔「由利・三津木探偵小説集成」〕

created by Rinker
¥2,970 (2024/05/18 21:23:40時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥2,970 (2024/05/18 11:49:44時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥2,970 (2024/05/18 21:23:41時点 Amazon調べ-詳細)
おどろおどろしい世界への入り口
Christine TrewerによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA